――放課後、先輩に呼び出され準備室に向かっている……。
足取りは重い、何故なら……。
名取
「俺、何かしたっけ……?」
用件はなしに『放課後準備室に来て』とその一文だけ送られてきた。
先輩からこんな風に連絡が来ることはあまり無い。
だから、なにか言われるんじゃないかと頭の中は不安で一杯だ。
『何の用事ですか?』
そう聞けばいいだけだったんだけど、
何か嫌なことだったらと思うと怖くて……
『分かりました!^^』
そういつもの返事をしてしまった。
本当に何なんだろう……。
呼び出される理由に思い当たる伏はない。
名取
「………………」
連絡が頻繁で嫌だとか…?
ほぼ毎週一緒に遊んでるし、頻度が多すぎるとか……?
学年違うし、校舎違うし毎日顔を見れるわけじゃないからって自分に理由をつけてそんなことをしているけど……
思い返せば俺、相当ウザくないか……?
もしかして俺、先輩の事束縛してる……!?
名取
(俺ってかなりしつこいタイプだったんだな……)
俺らしくない……、でも多分これが本当の俺なんだろうな……。
そして、そんな風にしていながら
『先輩に嫌われることを未だに不安に思う小心者』
これが本当の俺だ。
情けない……。
先輩のこととなると後ろ向きになるのは未だに治りきっていないのだった。
そんなくだらない事を考えているうちに準備室についてしまった……。
名取
「……………」
多分もう先輩は中にいる……。
扉に手をかけようとした時、中から気配がし扉があいた。
名取
「!」
白石
「あ、瑠夏君!」
名取
「お、お疲れ様です!」
白石
「外に影が見えたから瑠夏君かなって」
そう言ってニコッといつものように笑う。
あれ、別に怒ってない……?
白石
「どうしたの?」
名取
「あ、えっと……その……」
白石
「?」
名取
「先輩、怒って……ます?」
白石
「え?」
俺の言葉に驚いた顔をする。
白石
「わ、私なんか不機嫌に見えた?」
名取
「あ、いや、そうじゃなくて!
急に呼び出しあったから……」
白石
「?」
名取
「その、なんか俺に言いたいことがあるのかなって……」
白石
「あ、もしかして用件言わずに呼んだから、怒ってるって思ったの?」
名取
「違うん……ですね?」
白石
「うん、怒ってなんかないよ」
名取
「よ、良かった‥‥‥」
先輩の言葉に安堵して、情けなくその場に座り込む。
白石
「そんなに心配してたの?」
名取
「そうですよ!
俺なんかしたんじゃないかってずっと考えてたんですから!」
名取
「遊ぶ頻度が多いだとか、連絡が多すぎて
嫌われたんじゃないかとか、その色々……」
白石
「あははは!」
先輩は可笑しそうに声を出して笑う。
白石
「そんな事思うわけないじゃない。
それに本当にそう思ってたら瑠夏君相手だったらちゃんと言うよ!」
白石
「遊ぶのも、連絡くれるのも私は嬉しいよ」
名取
「先輩……」
白石
「心配させてごめんね。
でも流石に今日呼んだら用件なくても分かるかなって思ってさ」
名取
「え?」
白石
「もしかして……ほんとに全然分からずに来たの?」
名取
「は、はい……」
俺の返答に先輩は少し焦った顔をする。
白石
「今日、何日?」
名取
「今日って……7/24ですよね?」
白石
「うん、今日は何の日?」
名取
「えっと、夏休みの二日前……とか?」
白石
「……本気で言ってる?」
名取
「え、なんか今日ありましたっけ……?」
白石
「……私間違えたのかな?」
今度は先輩の方が不安そうな表情に変わる。
名取
「あの……」
白石
「瑠夏君さ……
今日『誕生日』であってるよね?」
名取
「……!」
そうか、今日は俺の誕生日だった。
前に先輩に聞かれて確かに答えた記憶はある……。
白石
「その顔、ほんとに忘れてたんだ」
名取
「す、すみません、俺、誕生日祝う習慣なくて、
自分の誕生日も意識したことなくて……!」
白石
「友達とかから、今日なにも言われなかったの?」
名取
「あー……」
名取
「実はプレゼント交換とか苦手で……、
今まで夏生まれって適当に言って誤魔化してました」
名取
「大体夏休みに入ってるし、皆それで忘れるんで」
贈り物選びとかそういうの苦手だし、
誰かと何かを贈り合うみたいなのは好きじゃない……。
それもあって誕生日を誰かに言うことは殆どなかった。
その代わり俺も誰かを祝うこともなく、
誕生日という文化は俺の中でどんどん衰退していった。
白石
「そ、そうだったんだ……」
急に先輩の声が小さくなる。
名取
「先輩?」
白石
「………………」
白石
「あ、あのこれなんだけど……」
名取
「え?」
白石
「迷惑かもしれないけど、良かったら受け取ってほしいなって……」
そう言って先輩は紙袋を差し出す。
俺の誕生日に紙袋……
も、もしかして……
名取
「これ……」
白石
「誕生日プレゼントなんだけど……」
名取
「!」
白石
「で、でも瑠夏君がそんな風にプレゼントとか苦手だって知らなくて!
ご、ごめんね!」
白石
「だからその、迷惑だって思ったら無理受け取らなくても――」
名取
「め、迷惑なんかじゃないです!」
白石
「!」
名取
「先輩からのプレゼントを迷惑なんて思うわけないじゃないですか!
めちゃくちゃ嬉しいです!」
白石
「瑠夏君……」
名取
「すみません、俺無神経なこと言っちゃいましたよね」
白石
「そんなことないよ、誕生日は人それぞれだし」
白石
「それにこれは私が勝手にやったことだし、もし嫌だったら――」
名取
「か、返しませんから!
大事にします!!」
名取
「………………」
先輩が俺のことを考えて選んでくれたプレゼントが、嬉しくないわけがない。
白石
「本当に無理はしないでね?」
名取
「無理なんかじゃなくて、本当に嬉しいんです!」
名取
「先輩が俺のこと考えて用意してくれたんですもんね……」
顔がにやけそうになるのを必死に堪える。
……相当気持ち悪い笑顔になるのは容易に想像がつく。
流石にそんな顔は先輩に見せられない。
名取
「俺の誕生日なんか覚えてくれてて本当に嬉しいです」
白石
「『なんか』は禁止」
名取
「!」
白石
「私の大事な瑠夏君のこと『なんか』って言わないで」
名取
「っ……!」
『大事な』だとかそんなの……言われたら困る。
名前で呼ばれるのですら未だに一つ一つ噛みしめてるのに、
そんな風に言われたら顔を上げられない。
名取
「お、俺も先輩の誕生日は祝わせてくださいね!」
恥ずかしさを誤魔化すように話題を変えた。
白石
「でも苦手なことを無理には……」
名取
「好きな人の事祝いたいっていうのは普通です!」
白石
「!」
名取
「今までその好きな人っていたことないから、
そういう時どうすればいいか分からなくて……」
名取
「確かに苦手ですけど、でも祝いたいです!」
白石
「っ!」
今度は段々と先輩の顔が赤く染まっていく。
名取
「あ、あの俺なんか変なこと言いました?」
白石
「そ、そうじゃなくて……」
白石
「嬉しくて……」
名取
「先輩……」
恥ずかしそうに顔を隠す先輩が本当に可愛くてたまらない。
名取
「俺も、本当に嬉しいです……」
名取
「好きな人に誕生日祝ってもらうのがこんなに嬉しいなんて知らなかったです」
そもそも俺ってなんで誕生日と疎遠になったんだっけ……
ああ、親が離婚する前は家があまり裕福じゃなくて誕生日を祝うことがなかったし、
プレゼントなんて貰ったこともなかったな。
それ以来誕生日とかどうでも良くなった気がする。
自分の中で大事じゃないから、他人の誕生日も同様に考えてしまっていたんだと思う。
でもこんなに嬉しいものだったなんて……。
白石
「瑠夏君……」
名取
「自分で言うのはどうかと思うんですけど、
せ、先輩が俺のことその、好きって言ってくれるから……」
名取
「先輩も俺に祝われるのは嫌じゃないなら、同じように返したい……です」
白石
「……うん、その時は瑠夏君に祝ってほしい」
名取
「ま、任せてください!」
白石
「でも、今日は瑠夏君の誕生日だから私の事はまた今度ね」
白石
「今日は瑠夏君のための日だから」
名取
「先輩……」
ああ、本当にこの人の言葉は心に刺さるなぁ。
『俺のための日』か……。
名取
「あの……じゃあ、誕生日なんでわがまま言って良いですか?」
白石
「いいよ?」
名取
「……抱きしめても良いですか?」
白石
「え!?」
名取
「我慢できそうにないんで、お願いしてみました」
名取
「ここ学校だし、勝手にすると先輩嫌がるかなって」
白石
「………………」
白石
「き、許可とか……別にいらないから」
名取
「!」
名取
「ありがとうございます!」
白石
「お礼言うの変じゃない?」
名取
「変じゃないですよ」
白石
「そうじゃなくて、本当にもう……
瑠夏君になら何をされても良いっていったよ?」
白石
「だから許可なんて取らないで?」
名取
「っ……」
殺し文句だと思う……。
俺のこと試してるとしか思えない。
だからと言って、簡単に先輩の誘惑に負けるわけにはいかない。
名取
「ここではこれ以上はしませんから安心してください!」
名取
「俺、犬よりは『待て』出来るつもりなんで!」
白石
「本当かな?」
名取
「でも家に行ったら覚悟してくださいね、もう待ちませんから」
白石
「うん……」
宣言をしてから抱きしめるのは逆に緊張する……。
いつもよりぎこちなく先輩の背中に手を回す。
抱きしめると、先輩の甘い香りが鼻をくすぐる。
大好きな先輩の香り……。
落ち着くけど、同時にいつもひどく心を乱される……。
名取
「……犬よりは待て出来ると思ったんだけどなぁ」
白石
「え?」
やんわりと体を離し、先輩の頬に手を添え顔を近づける。
名取
「………………」
白石
「んっ」
一瞬、ほんの少し触れるだけのキスをした。
これ以上は本気で我慢ができなくなる、残る理性で体を離した。
名取
「俺、思ったより駄犬みたいなんで、
待てができるうちに早く帰りましょう?」
白石
「うん……」
生まれて初めて誕生日が嬉しいと思った。
そして、好きな人に誕生日を祝ってもらうことがこんなに嬉しいなんて初めて知った……。
俺のための日って言ってくれたんだから、今日は沢山わがままを聞いてもらおう。
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